HIMS(Hims & Hers Health, Inc.)という企業の株価は2025年初来(2/16までに)139.96%という驚異的なパフォーマンスを記録しています。
「もはやAmazonのヘルスケア部門が独立したってくらい他を寄せ付けないMoatがある」といった強気のコメントがある中で、製薬業界に勤める個人投資家の中には「こんな会社潰れてしまえ」といった批判的な声も聞こえてきます。
私自身はヘルスケア系の銘柄に過去何度か手を出したものの専門知識もなく損失を出しているのでHIMSに関しても指をくわえて眺めているだけですが、今年最も盛り上がっている銘柄になぜこのような批判がされているのか、少し調べてみたいと思います。
HIMSという企業
2017年に設立されたアメリカの遠隔医療会社で、処方薬や市販薬を消費者直販で販売するモデルで急成長した会社です。
オンラインで処方薬や一般医薬品、パーソナルケア製品などを販売する遠隔医療企業です。ウェブサイトやアプリを通じて医師の診察を受け、処方箋が必要な薬をオンラインで購入できるサービスを提供しています。近年、特に男性向けのヘルスケア(薄毛治療、ED治療など)や、女性向けのヘルスケア(避妊、スキンケアなど)の分野で成長しています。2024年から減量治療用に話題となったGLP-1受容体作動薬(※Compounded)の取り扱いを始め、生産が追いつかず入手の難しい薬が手に入るとして人気を博し、それが直近の株価上昇につながっているようです。
大々的にアメリカンフットボールへのCM出稿を行い世間への露出を高め、その成長は勢いを増しています。
- GLP-1受容体作動薬:肥満症の治療に用いられる医薬品を抗肥満薬と呼びますが、近年はGLP-1受容体作動薬が特に注目されています。GLP-1受容体作動薬はもともと糖尿病治療薬として開発されましたが、強力な食欲抑制効果と体重減少効果があることがわかり、肥満症治療薬としても広く使われるようになりました。これらの薬は非常に人気が高く、特にアメリカでは需要に対して供給が追いついていない状況が続いています。
Compounded GLP-1 (調整GLP-1薬)
冒頭で取り上げた製薬業界の人間がHIMSを批判しているのはCompoundedなGLP-1受容体作動薬を販売しているという点が大きく、偽物抗肥満薬とさえ呼んでいます。
「Compounded」とは「調剤された」「調整された」という意味です。医薬品の世界では調剤薬局が医師の処方箋に基づき、市販の医薬品を組み合わせて患者のニーズに合わせた薬を調製することを指します。
現在、GLP-1受容体作動薬の需要が非常に高い一方で、供給が限られているため、一部の調剤薬局が「Compounded GLP-1」という未承認の調整薬を製造・販売しています。これは、GLP-1受容体作動薬の有効成分(例えばセマグルチドなど)を調剤薬局内で加工・混合して作られたものです。
なぜ「Compounded GLP-1」が問題なのか?
- 未承認薬であること:FDA(米国食品医薬品局)などの規制当局の承認を受けていないため、安全性や有効性が十分に保証されていません。正規のGLP-1受容体作動薬は厳格な臨床試験を経て承認されていますが、Compounded GLP-1はそのようなプロセスを経ていません。
- 品質管理の問題:調剤薬局での調剤は、製薬工場での厳格な品質管理体制とは異なります。品質や純度にばらつきがある可能性が指摘されています。
- 安全性への懸念:未承認薬であるため副作用や健康被害のリスクが正規の薬よりも高い可能性があります。特に不純物が混入している場合などは重大な健康被害につながる恐れもあります。
- 法規制のグレーゾーン:Compounded GLP-1の製造・販売は、法規制の面でもグレーゾーンに位置付けられています。規制当局も監視を強化していますが、完全に違法とは言い切れない状況を利用して、一部の企業が利益を追求している側面があります。
多額の広告費を投じたグレーな宣伝
HIMSがアメリカで非常に人気のあるアメリカンフットボールの試合中にCMを流しているということは、多額の広告費を投じて積極的にCompounded GLP-1を宣伝しているということです。
製薬業界の人間から見ると、未承認で安全性や品質に懸念がある可能性のあるCompounded GLP-1を、あたかも正規の医薬品のように大々的に宣伝することは倫理的に問題があると感じられるでしょう。
HIMSがCompounded GLP-1の販売を積極的に展開することで売上と利益を増やし、企業価値を向上させていると市場が評価していることが現在の株価高騰の原動力となっています。投資家の中には安全性や倫理的な問題よりも短期的な利益成長を重視する人もいるため株式市場では評価されますが、医薬品の品質や安全性を重視する立場からすると問題のある製品で利益を上げている企業が評価されることに強い反発を感じるはずです。
このようなグレーと言える手法で多額の利益を得る構図はHIMSに限ったことではなく、医療界隈全体でもよく見られることです。標準治療として採用されていないばかりか効果が定かではない治療法と称するものが無数に登場し、莫大なマーケティング費用をかけて知識のない人々を誘引しています。
簡単にまとめると、HIMSは真っ当とは言えないグレーな領域で輝かしい評価を得ていると製薬業界からは思われることがあり、扱っている製品に少なくないリスクが顕在化する可能性があるということで、投資をするならば留意した方が良いということになります。