2026年の投資テーマを考える
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2026年の投資テーマを考える

2026年からの数年間はAIという頭脳を支えるためのインフラを作り変える技術領域に投資妙味があるのではないでしょうか。

2023年から2025年にかけて株式市場の王者は間違いなく、生成AIと大規模言語モデルの爆発的な普及に裏打ちされた「AIブーム」だったと思います。しかし、2025年後半には投資の物語に対する疑義が多くSNS上で見られるようになり、それまで疑義を跳ねのけていたNVDAなど王道銘柄の株価も上値が重くなってきたように感じます。初期のゴールドラッシュ的なソフトウェアや単純なAIアプリケーションへの投機的な資金流入は一巡し、市場の関心はより本質的な吟味を必要とするようになったと言えます。

AI自体は今後も長期的な成長テーマであると私自身は確信していますが、その成長を阻害もしくは解決さえすればさらに飛躍させるだろう要因に目を向けていくべきだと思います。それはエネルギーの枯渇、通信帯域の限界、そして計算複雑性の壁です。ソフトウェアの最適化だけでは解決不可能であり、ハードウェアとインフラストラクチャで解決しなければならない領域です。2026年からの数年間はAIという頭脳を支えるためのインフラを作り変える技術領域に投資妙味があるのではないかという前提で掘り下げてみましょう。

##光電融合、シリコンフォトニクスの産業化

AIモデルが数兆パラメータ規模へ肥大化する中、計算チップそのものの処理能力よりも、チップ間でデータをやり取りする接続部分が最大のボトルネックとなっています。現在主流の銅線を用いたデータ伝送は物理的な限界に直面しているため、伝送速度を上げれば上げるほど発熱して信号が劣化するというジレンマに陥っています。

この壁を突破する解として挙げられるのが「光電融合(シリコンフォトニクス)」です。これはチップ上にレーザーや変調器などの光学素子を直接統合し、電気信号ではなく光信号でデータを伝送する技術です。光は電気抵抗による発熱がなく、長距離でも信号減衰が極めて少ないため、帯域幅密度を劇的に向上させつつ、消費電力を削減することが可能です。

###技術ロードマップ

今後5年間の技術ロードマップを調べてみると、光通信技術がサーバーの外側から内側へと浸透していくプロセスの最中にあるようです。

  1. プラグアブル光学
  2. CPO (Co-Packaged Optics)
  3. OCI (Optical Compute Interconnect)
  4. IOWN (APN)

####CPO (Co-Packaged Optics)

AVGO、つまりBroadcomなどはMetaのデータセンターへCPOの導入を行い、画期的なマイルストーンを達成したと報じられています。CPOが理論上の技術ではなく商用レベルの堅牢性を備えていることを証明できたことを意味しています。

####OCI (Optical Compute Interconnect)

スイッチだけでなく、計算チップそのものに光機能を統合するフェーズです。IntelやAyar Labsが主導する技術領域で、現在の銅線の問題点を解消するソリューションとなります。これによりAIクラスターの設計柔軟性が飛躍的に高まります。

CPUやGPUでデータ転送のために電気的I/Oを光学的I/Oに置き換えることは、容量と範囲に限界がある馬車を使って商品を配布することから、はるかに大量の商品をはるかに長い距離に運べる自動車やトラックを使用することに変わるようなものです。

####IOWNとオールフォトニクス・ネットワーク(APN)

日本企業が世界をリードする重要テーマとしてNTTが提唱する「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)」構想があります。これはネットワークから端末まですべてを光ベースの技術で接続し、低消費電力、大容量、低遅延を実現するものです。

IOWN Global ForumにはIntel、Sony、Microsoftなど170社以上が参画しており、一企業の構想を超えた世界標準となりつつあります。2030年までに電力効率100倍といったマイルストーン達成を目指しており、自動運転や遠隔手術、分散型AIコンピューティングを推進する重要な技術基盤となりえます。

###注目の有望企業

####Broadcom (米国 / NASDAQ: AVGO)

ネットワーク向けCPOの絶対的リーダーであり、Tomahawkシリーズスイッチチップはハイパースケールデータセンター市場で圧倒的なシェアを持つ。CPOソリューションとしてBaillyがあげられ、従来のプラグアブル方式に比べて消費電力を大幅に削減する。Metaでの採用実績とそれによる同社技術の優位性が裏付けられている。

####TSMC (台湾 / NYSE: TSM)

光電融合の製造プラットフォームを独占するキングメーカー。光回路と電子回路を極めて精密に統合する高度なパッケージング技術が必要であり、COUPE(COmpact Universal Photonic Engine)と呼ばれる独自の技術を開発している。次世代GPUやAIアクセラレータに不可欠な技術であり、他社の追随を許さないエコシステムを構築している。

####Nvidia (米国 / NASDAQ: NVDA)

GPUメーカーからシステム全体の設計者への転換を進めている。GPUの計算能力を最大化するために光通信技術を垂直統合しており、NVLinkスイッチにシリコンフォトニクスを導入したSpectrum-XやQuantum-Xなどプラットフォームが発表されている。(TSSMCのCOUPEがベースとなっている)

####Ayar Labs (米国 / 未上場)

計算チップ側のOCIのパイオニアであり、スイッチ側のBroadcomに対してプロセッサ側の光接続に特化する立ち位置となる。2026-2028年の商用展開に向けた準備が行われている。

####日本電信電話 (NTT) (日本 / TYO: 9432)

IOWN構想の設計者であり、光半導体の基礎研究リーダー。光電融合デバイスの基礎研究において世界トップクラスの実績を持ち、通信キャリアとしての枠を超えて光技術のライセンサーおよびプラットフォーマーとしての再評価される可能性がある。

####Intel (米国 / NASDAQ: INTC)

ハイブリッドレーザー技術における量産実績を持つ。企業全体としての課題はあるもののシリコンフォトニクス部門は魅力的。

##量子コンピューター、量子超越性から量子有用性へ

過去の「量子コンピュータは夢の技術であり、実用化は数十年先」という認識はこの数年で大幅に改める必要に迫られています。古典コンピューターで実用的な時間で解決できないことを量子コンピューターが解決できる量子超越性は既に特定分野で証明されたため、次は商業的に価値のある問題において解を効率的に導き出す量子有用性のフェーズへと進もうとしています。

創薬における分子シミュレーション、材料開発、金融におけるポートフォリオ最適化といった領域では既に実証実験段階から商業契約へと変わり始めています。

###技術ロードマップ

量子コンピューターには複数の実現方法があり、それぞれ一長一短がある。量子コンピューターは計算中にエラーが発生しやすいため誤り訂正技術が不可欠とされており、どの方式が誤り耐性への最短ルートにあるかを見極める必要があります。

方式強み課題プレイヤー
超伝導 (Superconducting)量子ビット数が多く、演算速度が速い配線が複雑で熱負荷が高いIBM, Google, Rigetti, IQM, Origin Quantum
イオントラップ (Trapped Ion)量子ビットの忠実度が高い演算速度が遅く、スケーリングに課題IonQ, Quantinuum(Honeywell)
中性原子 (Neutral Atom)数千量子ビットへの拡張が容易、室温動作に近いゲート操作の速度と忠実度の向上QuEra, Pasqal

商業化トレンドとしては完全な誤り耐性の完成を待たずに収益化を図るため、古典コンピューターでは難しかった複雑な確率分布によるデータ生成を量子コンピューターで行い、AIモデルの学習に使用する生成量子AIというトレンドがあります。

###注目の有望企業

####IonQ (米国 / NYSE: IONQ)

上場量子企業の筆頭であり、売上成長と技術マイルストーンの達成力が高い。イオントラップ方式のリーダーであり、急速な収益化フェーズにある。

####Quantinuum (米国・英国 / 非上場・Honeywell子会社)

Honeywellの量子部門とCambridge Quantum Computingが合併して誕生した巨人。商用機として最高の忠実度を誇り、優良顧客を獲得している。Nvidiaと提携して進めるハイブリッド量子コンピューティングについて注目したい。

####QuEra Computing (米国 / 非上場)

中性原子方式のトップランナー。レーザーを用いて原子を自在に配置できるため特定の問題に対して非常に強力とされる。

####IBM (米国 / NYSE: IBM)

量子コンピュータを科学的ツールとして確立するための明確なロードマップを持ち、エコシステム作りに注力している。

####Pasqal (フランス / 非上場) & IQM (フィンランド / 非上場)

欧州は量子技術への公的支援が手厚く、その中心にいるのがPasqalとIQMとされる。Pasqalは中性原子、IQMは超伝導を採用する。地政学的なリスク分散の観点からチェックしたい。

####Origin Quantum (本源量子) (中国 / 非上場)

米国による輸出規制に対抗し、中国は独自のエコシステムを構築している。

##AIのための次世代エネルギー基盤

AIデータセンターの電力消費量は今後数年で指数関数的に増加し、一部の予測では世界の電力需要の相当部分を占めるとされています。再生可能エネルギーでは24時間365日の安定した大電力を供給できないため、ハイパースケーラーは原子力への回帰を解決策として選んでいます。

原子力への回帰としては既存原発とSMR(小型モジュール炉)についてそれぞれ注目すべきでしょう。

SMRは出力300MW以下の小型原子炉です。工場でモジュールとして製造し現地に輸送して組み立てる方式を採用しています。電源喪失時でも自然物理現象で冷却する機能を持ち安全性に優れ、大規模原発のような現場施工リスクを減らし、量産効果によるコストダウンが期待されています。

###注目の有望企業

####Constellation Energy (米国 / NASDAQ: CEG)

米国最大の原子力発電事業者です。Microsoftとの間で締結された電力購入契約のためにスリーマイル島原子力発電所1号機の再稼働が決定され、AIデータセンターにとってベースロード電源がいかに高価値であるかを証明しています。SMRの普及まで優位性は揺らぎません。

####Kairos Power (米国 / 非上場)

GoogleはKairos Powerと契約し、2030年までに最初のSMRを稼働させる計画を持っています。溶融塩冷却という第4世代原子炉の概念を採用しています。

####X-energy (米国 / 非上場)

Amazonが支援するガス冷却・ペブルベッドという第4世代原子炉の概念を採用しています。

####NuScale Power (米国 / NYSE: SMR)

米国規制当局認証を受けており、米国原子力規制委員会からSMR設計認証を取得した最初の企業です。規制クリアランスの面で優位であり、2029年の稼働を目指しています 。

####Rolls-Royce SMR (英国 / 非上場・Rolls-Royce PLC子会社)

原子力潜水艦用リアクターの製造経験を生かし、加圧水型のSMRを開発しています。欧州市場における本命と言えるでしょう。2030年代初頭のグリッド接続を目指しています。

##次世代モビリティ、全固体電池

EV市場は現在、航続距離への不安や充電インフラの不足により停滞気味ですが、ガソリン車を完全に過去のものにする技術として全固体電池(Solid-State Battery)が挙げられます。液体電解質を固体に置き換えることで、エネルギー密度、安全性、充電速度のすべてが劇的に向上します。

主要プレイヤーから具体的な量産開始時期が示し始められており、2027年に集中しています。

###注目の有望企業

####トヨタ自動車 (日本 / TYO: 7203)

トヨタはEV出遅れを批判されてきましたが、全固体電池に関しては圧倒的な特許ポートフォリオを持っています。最も量産が難しいとされる硫化物固体電解質のサプライチェーン構築に着手しており、ゲームチェンジャーとなることを狙っています。

####Samsung SDI (韓国 / KRX: 006400)

全固体電池の量産ロードマップを最も具体的に示している企業の一つです。2027年の量産開始に対する自信を見せています。

####CATL (中国 / SHE: 300750)

世界最大の電池メーカーCATLも、全固体電池への移行を加速しています。半固体電池をNIOなどのEVメーカーに供給しており、段階的に全固体へと移行する現実的なアプローチをとっています。

####QuantumScape (米国 / NYSE: QS)

フォルクスワーゲンが支援するセラミック・セパレータ技術にて、VWグループの車両への搭載を目指しています。


次の5年間、AIブームの次の波はアルゴリズムやアプリから、それを動かすための原子/光子/電子を制御するハードウェアとインフラに移ると考えています。物理層の技術が実験室を出て、社会インフラとして実装される激動の期間となることを期待して、次の投資の準備を進めていきたいものですね。