TransMedicsのTAMに対しての懸念
臓器移植に革新をもたらすヘルスケア設備の企業として注目を集めるTransMedics (TMDX) ですが、その未来について海外TwitterユーザーのPon Chiaravanondさんからやや疑問の声が上がっていたので紹介します。
TransMedicsがどのような企業なのかは以前このブログでも記事にしているので、良かったら参照してください。
※解説及び元投稿の情報の正しさは保証していません。
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大きくは語られるTAMの見栄えの良さに対する、潜在的な障害についての考察となっています。
OCS Liverへの懸念
TransMedicsがTAMとして挙げる主要市場の中で、肝臓が最も大きな市場として位置付けられています。これはTAM全体の37.6%で手術毎に$45Kの見積もりで、同社のビジネスにとって重要です。ただしこれはこれまで市場がアクセスできなかったDBD/DCD(心臓死/脳死のドナー)の100%の追加を前提としているため、これが最大の見積もりを表しています。
これに対して現状の割合を見てみると、DBD/DCDドナーのうち肝臓では24.9%、肺で7.2%、心臓で8.7%が既に活用されています。つまり、従来型の方法でもこれだけの臓器を活用できているため、TransMedicsが市場シェアを獲得できるとしても未開拓の市場の割合はやや少なくなるという事になります。
OCS Heart(心臓向けのTMDXの製品)は革命的でありこれからアクセス可能となるドナーの割合も潤沢ですが、OCS Liver(肝臓向けのTMDXの製品)は上述した既に市場へ食い込んでいる従来型に対してより厳しい戦いを挑む必要がある可能性があります。既に従来型の設備を利用している外科医にとって、現状で「上手くいっている」と考えている場合は新たな手法を取り込むことに抵抗があるかもしれません。
より公平な視点で見ればOCS Liverが従来型に対して、臓器の質を向上させることは実証されています。しかし、上述したように現在のダイナミクスだけでは肝臓市場の戦いは難しいかもしれないということは頭の片隅にとどめておくべきでしょう。
競合(温熱灌流の方式)の存在
TransMedicsが手掛ける温熱灌流による臓器の保存に競合がいないわけでもありません。
イギリスのOrganOxが有力な候補で存在しています。こちらはCOPE European Trialなどを既に完了しており、現在はアメリカでも従来型との比較試験が行われています。
OCS Lungへの懸念
OCS Lungは2018年にINSPIRE、2019年にEXPANDと承認されていますが、臨床から商用への転換で足踏みが続いており、売上は低迷しています。
コロナ禍の影響もあり肺移植の需要自体も低下しました。ただしこの要素はコロナ禍の収束に伴いリバウンドの追い風を期待できます。
競合の存在
メリーランド州のLung Bioengineeringが挙げられます。
他にスウェーデンのXvivo Perfusion(XVIVO)も注目の競合として挙げられます。こちらは1998年に設立され、同じく全臓器の市場獲得を目標としています。心臓に関してEUとアメリカで臨床試験中です。腎臓輸送装置はFDA承認を受けて商用に2021年から発売を開始しています。
これら競合に対抗するために国際的な展開が重要となってきますが、それには莫大なコストが予想されます。もっともTransMedicsは現状でアメリカのみに注力していますが。同じく競合もイギリスとスウェーデンに拠点を置くため、この条件は同じとも言えます。
Ponさんの結論
Ponさんは最終的なまとめとして、現在のTransMedicsは既にOCS HeartやOCS Liverのある程度の成功を織り込んでいるように見え、もしいずれかがコケてしまうことがあればリスクリワードの計算が市場の見込みとは大きくずれてしまうだろうと見込みを伝えています。
彼の見込みが正しいかどうかは結果が出てからでないと分からないため、言及できません。しかし確かにとうなずけるのは自宅や農村地域での死亡といった臓器回収の難しい環境での死亡や、臓器提供に難色を示す家族の存在や競合により、TransMedicsが掲示するTAMの全てを獲得出来はしないという点を織り込む必要があるということです。
個人的なこれらの投稿の咀嚼ですが、商業展開がうまくいくのかという不安もありますがTransMedicsに何か判明しているまずい点があるというようなものではないため、あくまでも頭の片隅にこういうリスクがあるよという意見として受け止めるに留めようと思います。TAMへの指摘から分かることは、肝臓よりも心臓の移植分野でどれだけTransMedicsが活躍できるのかが企業価値に大きく寄与していくことでしょう。
余談ですが医療分野への投資は分からない用語など多く登場し、調べていくうちに以前は想像もできなかった市場の一端を少しずつ分かる(分かったような)のが楽しいところですね。調べながらの紹介なので間違いなどあるかと思うので、ぜひ指摘など貰えればうれしいです。