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スターリンクの衛星事情と交換頻度

#市場動向#SpaceX

スターリンクの衛星事情と交換頻度

イーロン・マスクの宇宙関連事業として「SpaceX (スペース X)」が有名です。そのSpaceXが手掛ける衛星インターネットサービス「Starlink (スターリンク) 」がいよいよ上場するのではないかと話題となっています。なおSpaceXというのは通称で正式にはSpace Exploration Technologiesというのは豆知識です。

今回はそんなStarlinkの手掛ける衛星コンステレーションの概要について紹介します。

スターリンクの概要

Starlinkは「衛星コンステレーション」によるサービスです。衛星コンステレーションとは、多数の人工衛星を打ち上げて協調動作させることを指します。最も想像しやすいものでは通信衛星による全世界へのインターネットアクセスの提供でしょうか。

日本は人口とインフラ密度が特殊なため実感しづらいですが、アメリカは国土の広さからインフラ密度が低くインターネット回線の平均速度は18.7MB/sとされています。Forbesによれば、Starlinkによる衛星インターネットサービスは50~150MB/sで遅延は20~40msと、アメリカの平均に対して優位性を持っています。

運用される通信衛星

Starlinkが2021年1月時点で運用している通信衛星は1,015基となっています。

2019年4月のSpaceNews報道によれば、連邦通信委員会(FCC)はStarlinkが1,600個のブロードバンド通信衛星を高度550kmで運用することを承認しています。その他の通信帯域と高度の衛星についても承認されています。

計画では下記の高度別の内訳で、常時1万2,000基の人工衛星を運用するとされています。

高度基数
340km7,500
550km1,600
1,100km2,800

衛星コンステレーション競合の計画

2020年3月にNICTが衛星コンステレーション計画の動向をまとめている資料に、各社が計画している衛星の運用数が掲載されています。Starlinkが飛びぬけて大量の衛星を運用する計画であることが分かります。

事業名本拠地用途衛星数
SpaceX (Starlink)アメリカブロードバンド通信の提供約1万2,000基 (最大4万2,000基を構想)
OneWebイギリスブロードバンド通信の提供720基 + 2,560基
Telesatカナダブロードバンド通信の提供300基
Kepler CommunicationsカナダIoT/M2M向けバックホール回線の提供140基
Boeingアメリカブロードバンド通信の提供147基
Amazon (Kulper)アメリカブロードバンド通信の提供3,236基

それぞれ衛星を運用する軌道はStarlinkが低軌道(LEO)、OneWebはLEOと中軌道(MEO)を同程度、TelesatはLEO、KeplerはLEO、BoeingはLEOとMEO 静止軌道(GEO)のそれぞれとみられるがほぼ情報なし、Amazonは LEO、とほぼ全ての事業者がLEOでの運用を念頭としています。

衛星とロケット

軌道選択の話

人工衛星はどの軌道・高度を飛ぶかで特性が大きく変わります。大雑把には地上から見える=通信ができるため、高度が高ければ高いほど地球の丸さに影響されず多くの地点から衛星と通信が行えます。しかし高度が高いという事は、それだけ通信を送って返ってくるまでに遅延が生じてしまいます。遅延を取るか数で補うのかを選ぶ必要があり、両立が難しい関係にあります。

多くの衛星コンステレーションではブロードバンド通信の提供を目的としているので、遅延を避ける目的でLEOに衛星を投入します。その代わりに衛星と通信できない時間が出来てしまっては元も子もないため、常にサービス提供エリアから衛星が見えるように多くの衛星をLEOに存在するようにして、切れ目がないようにする必要があります。

軌道と寿命の関係

高度3万kmを超えるGEOでは空気抵抗はほとんどありませんが、高度500km程度のLEOでは地上よりは薄いとはいえ空気抵抗がかなり生じます。そのため、空気抵抗を受けて速度が減少することで高軌道よりも低軌道の衛星の方がより早く高度が下がり、地球へと墜落することとなります。

衛星コンステレーションで用いられるような超小型衛星は軌道制御機能を持っていないか、能力が限られているため数年程度で墜落により寿命を迎えることとなります。LEOは高度2,000km以下を指しており、高度 500km程度の衛星の寿命は約5年と言われています。高度3万kmを超える静止軌道場合は15年から20年が寿命と言われます。

約1万2,000基の人工衛星をLEOで運用する計画のStarlinkは、ざっくりと年間2,400基、毎日6.6基を寿命により交換していく計算になります。

SpaceXの衛星打ち上げ能力

SEDのまとめた資料によれば、StarlinkのためにSpaceXは「ファルコン 9」ロケットを用いて1度の飛行で60基を打ち上げています。

2019年8月に発表されたSpaceXのファルコン 9による衛星打ち上げは、200kgまでであれば1基あたり100万ドルの価格プランを発表しています。SpaceXは再使用できる宇宙ロケットの開発に注力しており、その成果が打ち上げ価格の劇的な低価格化を進めています。ファルコン 9自体は現在のブロック5にて最終系とされていますが、今後もSpaceXは新たに再利用できる部分を生み出して低価格化を進めることが期待されています。

SpaceXが現在ファルコン 9のノウハウを投入した大型ロケットとして「ファルコン・ヘビー」を手掛けています。ファルコン・ヘビーはLEOに対して63,800kgを積載可能なスペックとされており、ファルコン 9は22,800kgなので約2.8倍の積載が可能となっています。

ファルコン・ヘビーはファルコン 9の再利用可能な1段目を基本技術として流用しているため、繰り返し利用し低価格化を進めていくことが可能になっていくと思われます。2018年には最終的にファルコン・ヘビーはファルコン 9の同等のコストまで落とすことが可能と主張していました。

Starlinkの維持にかかる打ち上げ費用

SpaceXがいずれのロケットで衛星を打ち上げていくのかは分かりませんが、ファルコン 9の価格プランより上の価格帯のロケットを使用することはあまりないでしょう。駆け足ですが、最後に衛星の交換にかかる毎年の費用を計算してみます。

費用は価格プランである1基100万ドルで計算するため実際の費用はもっと低いはずであること、ファルコン 9での実際の打ち上げ数を元にしているため衛星の小型化などで積載可能数が増減する可能性が高いこと、打ち上げがすべて成功すること、ファルコン・ヘビーが宣言通りファルコン 9と同等のコストとなること(費用が同額で2.8倍の積載可能化)、を前提とするためかなりアバウトになっていることをご了承ください。

使用するロケット1基毎の費用年間2,400基毎の費用
ファルコン 9100万ドル24億ドル
ファルコン・ヘビー36万ドル8.6億ドル

2021年2月、SpaceXはStarlinkの予約注文が10,000人を突破したことを発表しています。