企業概要
Joby Aviation, Inc.(NYSE:JOBY)は、カリフォルニア州サンタクルーズに本社を置く全電動の垂直離着陸機(eVTOL)を開発する航空会社です。同社はこのeVTOL機を世界中の都市で高速、静音、かつ便利なサービスの一環として運用することを目指しています。
Joby Aviationは、Intel Capital、Toyota AI Ventures、JetBlue Technology Ventures、Tesla/SpaceXの支援者であるCapricorn Investment Groupなど、モビリティ分野のリーダー企業から支援を受けています。
Joby Aviationは2009年9月11日にJoeBen Bevirt氏によって設立されました。Bevirt氏は以前の会社Velocity11とGorillaPodを売却した資金で、サンタクルーズ山脈にある自身の牧場でJoby Aviationを含むいくつかのプロジェクトを立ち上げました。創業当初は電気モーター、飛行ソフトウェア、リチウムイオン電池など電動航空の様々なコンポーネントの研究開発に注力していました。そしてNASAのX-57 MaxwellやLEAPTechプロジェクトに参画した後、独自のエアタクシー構想を開発しました。
Bevirt氏のビジョンは、eVTOLによって都市部の交通渋滞を緩和し、人々の移動をより効率的かつ持続可能なものにすることです。
ビジネスモデル
Joby Aviationのビジネスモデルは、eVTOL機を製造、運用、所有することで垂直統合型の輸送会社を構築し、顧客に直接サービスを提供することに重点を置いています。これらのサービスは民間企業から政府機関まで多岐にわたると予想されます。
同社のeVTOL機は1回の充電で100マイル(約160km)以上を飛行できるように設計されており、静音性も高く、住宅地への着陸も可能です。エアタクシーサービスに加えて、貨物輸送やその他の商業活動にも利用される可能性があります。
Joby Aviationは、Delta Air Lines、Toyota Motor Corporation、Uber Technologies、米国国防総省、Saudi Aramcoの航空子会社など、商業および政府機関と提携しています。これらのパートナーシップを通じて同社はサービスの普及を促進し、収益機会を拡大することを目指しています。
2020年後半にJoby AviationはUber Elevateを買収しました。この買収の目的はElevateのソフトウェアツールを活用することで、市場選択、需要シミュレーション、マルチモーダルオペレーションを促進し、Joby Aviationの商業サービスの立ち上げを加速させることでした。Elevateは以前Uber Copterと呼ばれるサービスを運営しており、ニューヨークエリアのすべてのUberユーザーがJohn F. Kennedy国際空港への旅行を予約することができました。Joby Aviationは、Elevateのツールと人員を活用することで商業的な成功を加速できると考えています。
財務情報
Joby Aviationは現在、商業運航に向けて開発と試験を行っている段階にあり収益はほとんど発生していません。2024年度の最初の9か月間で飛行サービスによる収益は81,000ドルでしたが、営業損失は約4億4,700万ドルでした。
同社は将来的に収益ポテンシャルを最大化しeVTOL機のネットワークを構築するために、自社の航空機を個人顧客や独立した第三者に販売するのではなく、製造、運用、所有することに重点を置いています。
業界分析
eVTOL航空機市場は電気推進と自律技術の進歩により急速に成長しています。都市部の交通渋滞を緩和し、炭素排出量を削減できる可能性を秘めているため、eVTOLは既存の航空宇宙企業やスタートアップ企業から大きな注目を集めています。
市場調査会社Grand View Researchによると世界のeVTOL航空機市場規模は2023年に13億5,000万米ドルと推定され、2024年から2030年にかけて54.9%のCAGRで成長すると予想されています。バッテリー技術の開発と改良はeVTOL市場の成長を促進する重要な要因となっています。
eVTOL市場の成長を促す主な要因は、都市部の交通渋滞の増加、環境に優しい輸送ソリューションの必要性、自律飛行技術の統合、航空宇宙企業とスタートアップ企業間の競争の激化などです。
eVTOL市場の現状と将来展望
eVTOL市場はまだ初期段階にあり、規制やインフラストラクチャの整備など多くの課題を抱えています。例えばeVTOLの運航に関する規制は国や地域によって異なっており、国際的な標準化が進んでいません。またeVTOLの離着陸場となるvertiportなどのインフラストラクチャの整備も遅れています。
しかしその一方で、eVTOLは都市部の交通渋滞の緩和や環境問題の解決に貢献できる可能性を秘めており、大きな成長ポテンシャルを秘めています。都市化の進展に伴い都市部における交通渋滞は深刻化しており、人々の移動時間や物流コストの増加、大気汚染などの問題を引き起こしています。eVTOLはこれらの問題を解決する手段として期待されています。また、eVTOLは電気で駆動するため排出ガスがゼロであり、環境負荷の低減にも貢献できます。
今後、技術の進歩や規制の整備が進みvertiportなどのインフラストラクチャが整備されることで、eVTOL市場は急速に成長すると予想されます。Morgan Stanleyのレポートによると、eVTOL市場は2040年までに1兆ドル、2050年までに9兆ドル規模に成長する可能性があると予測されています。eVTOLは都市部におけるエアタクシーサービスだけでなく、貨物輸送、救急医療、観光など、様々な分野での活用が期待されています。
競合分析
Joby Aviationは、eVTOL市場で多くの競合他社と競争しています。主な競合他社には、Elbit Systems、Embraer、Archer Aviation、EVE、Vertical Aerospaceなどがあります。
会社名 | 市場シェア | ビジネスモデル | 強み | 弱み |
---|---|---|---|---|
Elbit Systems | 情報なし | 軍事用ドローン、航空電子機器、無人システム | 高度な技術力、豊富な開発実績 | eVTOL市場での経験不足 |
Embraer | 情報なし | 民間航空機、防衛・セキュリティ | ブランド力、顧客基盤 | eVTOL市場での後発組 |
Archer Aviation | 情報なし | eVTOL航空機 | 革新的な機体設計、自律飛行技術 | 資金力、生産能力 |
EVE | 情報なし | eVTOL航空機、都市型エアモビリティ | エンブラエルの支援、ブラジル市場での優位性 | グローバル展開 |
Vertical Aerospace | 情報なし | eVTOL航空機 | 英国政府の支援、垂直離着陸技術 | 資金力、ブランド力 |
これらの企業はそれぞれ独自の技術やビジネスモデルを有しており、Joby Aviationはこれらの競合他社との差別化を図り市場シェアを獲得していく必要があります。
例えばElbit Systemsは軍事用ドローンや無人システムの開発で豊富な実績を持つ企業ですが、eVTOL市場では後発組です。Embraerは民間航空機の大手メーカーですが、eVTOL市場ではまだ目立った成果を上げていません。Archer Aviationは革新的な機体設計と自律飛行技術を強みとしていますが、資金力や生産能力の面で課題を抱えています。EVEはエンブラエルの支援を受けており、ブラジル市場では優位性がありますがグローバル展開では遅れをとっています。Vertical Aerospaceは英国政府の支援を受けており、垂直離着陸技術に強みがありますが資金力やブランド力では他の競合他社に劣ります。
SWOT分析
強み
- eVTOL市場における先発者の優位性
- Toyota、Uber、Delta Air Linesとの戦略的パートナーシップ
- 経験豊富な経営陣と技術チーム
- FAAの型式証明プログラムの第4段階を40%以上完了
- 垂直統合型ビジネスモデルによる品質管理、コスト削減、顧客体験の向上
弱み
- 収益化の遅れ
- 高い開発コスト
- 限定的な運用実績
機会
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要増加
- 環境に優しい輸送ソリューションへの関心の高まり
- 自律飛行技術の進歩
- 世界的な規制の整備
- 軍事分野への進出
脅威
- 競争の激化
- 規制の不確実性
- 技術的な課題
- 社会的な受容性
- インフラストラクチャの不足
競争優位性
Joby Aviationは、eVTOL市場においていくつかの競争優位性を有しています。
- 先発者の優位性: Joby AviationはeVTOL市場における先発者であり、長年の研究開発を通じて高度な技術とノウハウを蓄積しています。2019年には量産プロトタイプを開発し、2023年6月にはFAAの承認を得て、初の量産型eVTOL機の飛行試験を開始しました。
- 戦略的パートナーシップ: Toyota、Uber、Delta Air Linesなどの大手企業との戦略的パートナーシップにより資金調達、技術開発、市場開拓を有利に進めることができます。ToyotaはJoby Aviationの主要な投資家であり、製造パートナーでもあります。UberはJoby AviationのエアタクシーサービスをUberアプリに統合することで顧客基盤の拡大に貢献しています。Delta Air LinesはJoby Aviationと提携し、空港と都市部を結ぶエアタクシーサービスを提供する予定です。
- 垂直統合型ビジネスモデル: eVTOL機の製造から運用までを一貫して行う垂直統合型ビジネスモデルにより、品質管理、コスト削減、顧客体験の向上を実現できます。Joby Aviationはカリフォルニア州に独自のエンジニアリング、製造、飛行試験施設を保有しており、eVTOLの開発、製造、運用のすべてを自社で行っています。
成長ドライバー
Joby Aviationの今後の成長を牽引する主な要因は以下の通りです。
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要増加: 都市化の進展に伴い都市部における交通渋滞は深刻化しており、エアタクシーサービスへの需要は高まっています。eVTOLは従来のヘリコプターに比べて騒音が少なく、環境負荷が低いため、都市部での利用に適しています。
- 環境に優しい輸送ソリューションへの関心の高まり: 環境問題への意識の高まりから環境に優しい輸送ソリューションへの関心が高まっており、排出ガスゼロのeVTOL機はそのニーズに応えることができます。企業や政府はCO2排出量削減目標を達成するためにeVTOLの導入を検討しています。
- 軍事分野への進出: Joby Aviationは米国国防総省とAgility Prime契約を締結し、最大9機のeVTOL機を米空軍に納入する予定です。2024年9月には最初のeVTOL機をエドワーズ空軍基地に納入しました。国防総省との契約はJoby Aviationの技術力と信頼性を証明するものであり、今後の成長を加速させる可能性があります。
リスク分析
Joby Aviationは以下のリスクに直面しています。
- 技術的なリスク: eVTOL機の開発は依然として技術的な課題を抱えており、開発の遅延やコストの増加などが発生する可能性があります。eVTOLは従来の航空機とは異なる技術を採用しているため、安全性や信頼性を確保するためにさらなる研究開発が必要です。
- 規制上のリスク: eVTOL機の運航に関する規制はまだ整備されておらず、規制の変更によって事業計画に影響が出る可能性があります。eVTOLの運航には、安全性、騒音、プライバシーなど様々な課題があり、各国政府はこれらの課題に対処するための規制を策定中です。
- 市場リスク: eVTOL市場はまだ初期段階にあり、市場の成長が予想よりも遅くなる可能性があります。eVTOLの普及には社会的な受容性、インフラストラクチャの整備、価格などの課題を克服する必要があります。
- 競争リスク: eVTOL市場には多くの競合他社が参入しており、競争の激化によって収益性が悪化する可能性があります。Joby Aviationは競合他社との差別化を図り、市場シェアを獲得するために技術開発、マーケティング、顧客サービスなどを強化する必要があります。
試験飛行中の事故
2022年2月16日、Joby Aviationの最初の量産前プロトタイプ機がカリフォルニア州フォートハンターリゲット近郊での飛行試験中に墜落しました。国家運輸安全委員会(NTSB)の最終報告書によると、この事故は試験機が設計速度を超える速度で飛行中にプロペラブレードが分離し、隣接するプロペラアセンブリに衝突してカスケード故障を引き起こしたことが原因でした。
この事故はeVTOL機の安全性に対する懸念を高める可能性があります。Joby AviationはNTSBの調査結果を踏まえ、安全対策を強化し信頼回復に努める必要があります。
FAAとEASAのeVTOL認証基準の違い
FAAとEASAはeVTOLの認証基準について異なるアプローチをとっています。FAAは従来の小型飛行機やヘリコプターと同様に、eVTOLの一部の重要な部品をcritical partsとして認めています。critical partsとは設計、製造、保守が適切に行われていれば、一般的に故障しないと考えられる部品です。一方、EASAは単一故障点を排除することを求めており、重量に敏感な電気航空機の設計に制約を課す可能性があります。
FAAとEASAの認証基準の違いはeVTOLの開発と普及に影響を与える可能性があります。Joby AviationはFAAとEASAの両方の認証を取得するために、それぞれの基準を満たすeVTOL機を開発する必要があります。
シナリオ分析
ベストケースシナリオ
- eVTOL機の開発が順調に進み、2025年に予定通り商業運航を開始する。
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要が急速に拡大し、早期に市場シェアを確保する。具体的には既存の交通手段よりも速く、便利で、安価なサービスを提供することで多くの顧客を獲得します。また、UberやDelta Air Linesなどのパートナー企業との連携を強化することで顧客基盤を拡大します。
- 他の都市や地域にもサービスを展開し、グローバルに事業を拡大する。北米、ヨーロッパ、アジアなどの主要都市でエアタクシーサービスを開始し、将来的には世界中の都市にサービスを展開します。
- 収益性が高まり株価は大幅に上昇する。エアタクシーサービスの収益が拡大し、黒字化を達成することで投資家の信頼を獲得し、株価は上昇します。
ベースケースシナリオ
- eVTOL機の開発に若干の遅れが生じるものの、2026年には商業運航を開始する。
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要は堅調に推移し、一定の市場シェアを獲得する。競合他社との競争が激化する中で、Joby Aviationは差別化されたサービスを提供することで一定の市場シェアを維持します。
- 収益は徐々に増加し、株価は緩やかに上昇する。エアタクシーサービスの収益が拡大するにつれて収益は増加し、株価も緩やかに上昇します。
ワーストケースシナリオ
- eVTOL機の開発に重大な遅延や問題が発生し、商業運航の開始が大幅に遅れる。技術的な問題や規制の変更などによりeVTOL機の開発が遅延し、商業運航の開始が2027年以降にずれ込む可能性があります。
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要が伸び悩み、市場シェアを獲得できない。eVTOLの安全性に対する懸念や、vertiportなどのインフラストラクチャの不足などによりエアタクシーサービスの需要が伸び悩む可能性があります。また、競合他社の台頭によりJoby Aviationは市場シェアを獲得できない可能性があります。
- 収益化が困難となり、資金繰りが悪化する。エアタクシーサービスの収益化が遅れ、開発コストの増加や競争の激化などにより、資金繰りが悪化する可能性があります。
- 株価は低迷し、倒産のリスクも高まる。収益化の遅れや資金繰りの悪化により、投資家の信頼を失い、株価は低迷します。最悪の場合、倒産する可能性もあります。
投資判断
Joby AviationはeVTOL市場のパイオニアとして大きな成長ポテンシャルを秘めています。しかし同社はまだ商業運航を開始しておらず、収益化の道筋は不透明です。また、技術的な課題、規制上のリスク、競争リスクなど多くのリスクも抱えています。
これらのリスクを考慮すると、現時点ではJoby Aviationへの投資はハイリスク・ハイリターンの投資と言えます。
投資家とアナリストが注目すべきポイント
- eVTOL機の開発の進捗状況
- FAAの型式証明の取得
- 都市部におけるエアタクシーサービスの需要
- 競合他社の動向
- 規制環境の変化
- 資金調達方法(株式発行など)
結論
Joby AviationはeVTOL市場において先発者の優位性と戦略的パートナーシップを有しており、大きな成長ポテンシャルを秘めています。しかし、同社はまだ商業運航を開始しておらず収益化の道筋は不透明です。また、技術的な課題、規制上のリスク、競争リスクなど、多くのリスクも抱えています。
これらのリスクを考慮すると、現時点ではJoby Aviationへの投資はハイリスクと言えます。しかし、長期的な成長ポテンシャルを考慮すると積極的な投資家にとって魅力的な投資対象となり得るでしょう。eVTOL市場の成長性とJoby Aviationの将来性を信じ、長期的な視点で投資できる投資家にとっては、大きなリターンが期待できる可能性があります。