米国銘柄分析 | Cloudflare(NET)
**Cloudflare(NET)**について紹介します。Cloudflareはウェブ系のIT技術界隈では知名度のある企業ですが、知っているという人の中でもCDNだけを手掛けている会社という印象を持っている人が多いと感じています。かくいう私も調べてみるまでそう思っていました。
現在のCloudflareはCDNはもちろんネットワーク上のプラットフォーム全般に対しても幅広いアプローチを続けており、IT技術をうまく活用できる企業が生き残っていく時代に必要とされる企業へと成長できる可能性があります。
コロナ禍の中にあって巣ごもり需要の増加から一気に注目度を増した企業ですが、今一度詳しく手掛けているビジネスについて理解を深めたいと思います。
企業概要
Cloudflareは創設者となるMatthew PrinceとLee Hollowayが、2004年に取り組んでいた「スパムメールがどこから来るのか」を調査するためのスパム業者のメールアドレス収集プロセスの追跡システム構築から始まりました。
Webサイト管理者が直面していたスパムメールという驚異から、次第にそれ以外の多くの脅威に対しても追跡できるシステムへと進化を続け、いつしか185か国以上の数千サイトを擁する巨大プロジェクトへと成長していました。
そして脅威の追跡にとどまらず、脅威を防ぐためのシステムへと舵を切りそれをビジネスとすることを現在のCOOとなるMichelle Zatlynから提案され、2009年にCloudflareが生まれることになります。
IT技術の企業らしくアメリカのカリフォルニア州サンフランシスコを本拠地としており、「より良いインターネット環境の構築を支援する」をモットーにクラウドプラットフォーム事業を提供しています。
プロダクト・サービス
パフォーマンス向上(CDN)
Cloudflareの事業はどれもネットワークインフラとい点で一貫しており、あえて分類して紹介するならばパフォーマンス向上サービスでしょうか。最も知名度の高いCDN事業がここに分類できます。CDNとはコンテンツ配信ネットワーク(Content Delivery Network)の略称です。
ユーザーがシステムやアプリケーションを利用するとき、そのコンテンツが格納されたサーバーへとアクセすることになります。しかし利用者が増加すると世界中のユーザーが同時にサーバーへとアクセすることとなり、とてもではありませんがサーバーの処理能力が追い付かず、サーバーが正常な動作を返すことが難しくなっていきます。
CDNはそのオリジナルのサーバーの代わりに、あらかじめ保存しておいたコンテンツをユーザーへと返答するサービスと言えます。世界中に応答するサーバーが存在することで、世界各地のユーザーは物理的に近い距離のサーバーから応答を得ることが可能となります。サーバー負荷の軽減と応答速度の向上という大きなメリットを得られることから、事業者がCDNを利用しない手はありません。
FastlyやAkamaiといったCDN事業者は、この世界中に分散したサーバーをどの経路で通信することでよりユーザーに素早く応答するかなどの通信制御技術で競争を続けています。Cloudflareの場合、通常の最短距離だけを考慮するCDNではなく、通信経路の混雑度も考慮に入れるArgo Smart Routingという制御技術を有料サービスとして提供しています。
ネットワーク上の通信量が増えれば増えるだけ業界のパイは増加するため、コロナ禍により加速はするものの、コロナ禍がなかったとしてもCloudflareには有利な市況となっていた印象です。
ネットワークセキュリティ
事業者のオリジナルサーバーにアクセスを行う前にCloudflareが設置したサーバーがアクセスを受け取るということは、負荷分散以外に悪意あるユーザーからの通信にCloudflareが介入して阻止することができることを意味しています。
自動学習を行うCloudflareのシステムが攻撃を検知し、予防する防壁の役割を果たすネットワークセキュリティのサービス提供もCloudflareの収益となっています。
怪しい通信に対する遮断、ユーザーの定義したルールに基づくフィルタリング、それらの設定や効果をなるべくシンプルに操作や確認ができる使い勝手の良さはCloudflareが技術者からの支持が高い理由の1つとなっています。
今後テレワークがますます推奨され、今まで以上に多彩な端末や場所から社内の情報へアクセスする機会が増えると見込まれるため、ネットワーク上からセキュリティを構築可能なこの分野も成長を続けると感じています。
エッジコンピューティング
世界中に設置されたCloudflareのサーバー上で、プログラムコードを実行することのできるWorkersというサービスがあります。従来のCDN事業者が手掛けてきたのは事前に保存したコンテンツをユーザーに届けるだけのものでしたが、エッジコンピューティングの時代へと変革しようとしています。
エッジとは終端端末のことです。ここではユーザーに最も近い端末という意味です。プログラムコードをエッジで実行可能という事は、これまで事前に保存することが出来ずオリジナルサーバーでしか処理できなかったデータをエッジで自ら生成可能となることを意味しています。
例えば高度にパーソナライズしたコンテンツの表示、ユーザーごとのアクセス制御、A/Bテストの臨機応変な切り替え、画像操作などエッジコンピューティング技術の革新により可能となる処理は格段に増加しています。
AkamaiやLimelight、Fastlyなど競合もこぞってこの分野を次の争点とみて、新サービスの発表を相次いでいます。技術的な情報サイトによればFastlyとCloudflareがこの分野では今一歩リードの立場にいるようですが、油断はできないでしょう。
サーバーレスWebサイト構築
何か一つのパッケージ製品を使用していた時代から、現代のWebサービス開発は網羅はせずとも単一作業に特化したマイクロサービスを組み合わせて1つのWebサービスを形作るスタイルへと変化しています。
例えばブログをマイクロサービスで構成した場合、データベースだけを提供するサービス、ページの表示方法だけを制御するプログラム、記事内容だけを管理するサービス、コンテンツ配信のみを行うサービス、ウェブサイトの公開の場となるだけのサービスなどざっと細分化するだけでもこれだけのサービスの組み合わせとなります。
この組み合わせをJAMstackと言うのですが、キーワードの1つにサーバーレスというワードが存在します。開発者の視点からサーバーの存在を意識する必要がなく、サーバーの運用自体をサービスとして利用するという発想です。
CloudflareがCDNのために設置したサーバーを、Webサービスを公開するホスティングサーバーとして利用できるWorkers Sitesというサービスが提供されています。静的サイト生成(Static Site Generator)と呼ばれるキーワードの関連サービスです。
ただしこの事業に関しては競合が非常に多く、どの競合も強い支持を得ており果たして旨味があるのかは疑問符が付きます。例えばGitHub pages、Netlify、Vercel、Heroku、Firebase などの名前はすぐに登場してくることでしょう。どれも技術力に定評がある企業で、出し抜くことは容易ではありません。
とは言いつつも現在公開されているWebサイトの大半はまだ従来の手法で構築されているため、全体のパイは今後も広がり抜きんでた勝者はいなくとも、全員が勝者になることは十分に可能な市場だと考えます。
市場
Cloudflareがより良いインターネットの構築の支援を使命としていることからわかるように、見据えている市場はインターネットの全域です。インターネットインフラ事業であるため、全域を手掛けることに不可能さは感じません。
決算資料に掲載されたビジョンでは、Cloudflareらが手掛けるクラウドプラットフォームビジネスは従来型のCDNやセキュリティ市場を侵食していき、2022年には470憶ドルの市場へと変貌すると予測しています。
これは従来型のビジネスの移行と、サーバーレスやIoT、5Gやテレワークの推進といった要因が織り込まれています。
売上 | 大口顧客 | |
---|---|---|
2016 | $85M | |
2017 | $135M | |
2018 | $193M | 235 |
2019 | $287M | 387 |
2020 | 637 |
独り勝ちとなるとは思えないものの、20%程度のシェアの獲得は難しくないのではないでしょうか。
実際にアメリカ企業の総収入トップ1,000に掲載される企業のうち16%がCloudflareの顧客となっています。個別のリストは確認していないため、この16%が全体の比率のどれだけを占めているのかは分かりませんが。
業績
売上 | 売上成長率 | 粗利益率(GAAP) | |
---|---|---|---|
2016 | 85M | 59% | 79% |
2017 | 135M | 43% | 77% |
2018 | 193M | 49% | 78% |
2019 | 287M |
この数年は50%前後の売上成長率を維持しており、コロナ禍のあった2020年Q2についても前年同期比で48%を維持しています。
コロナ禍がある程度収束することで、巣ごもり需要によるネット利用は一定の減少となるでしょうが、Cloudflareが手掛ける事業が不要となることはあり得ません。
今後も成長率50%前後の手堅い成長を続けるのではないでしょうか。
経費における研究開発費の割合もブレが少なく、高い粗利益率を維持できていて、プラットフォーム事業の利益率が急に損なわれるとも思えないため、PSR20x程度なら魅力的に感じます。
買値など値ごろ感は人によって感じ方が大きく異なりますので、あまり触れません。
Fastlyと並べて動向を確認したい銘柄ですね。