米国銘柄分析 | Rocket Lab(RKLB)

企業概要

Rocket Lab USA, Inc.(以下、Rocket Lab)は、2006年にニュージーランドで設立された航空宇宙企業です。2013年頃に本社をアメリカのカリフォルニア州ハンティントンビーチに移転し、現在は同州ロングビーチに本社を置いています。Rocket Labは、宇宙経済を支える小型・中型ロケット、宇宙船、宇宙船部品、関連ソフトウェア及びサービスの設計・製造を行っています。従業員数は1,650人です。

Rocket Labは、「宇宙を商業的に実現可能にし、これまで以上にアクセスしやすくする」というビジョンと、「革新的で費用対効果の高いソリューションで、迅速なペイロード展開を実現する」というミッションを掲げています。低コスト、高頻度、柔軟な打ち上げサービスなどをバリュープロポジションとしています。同社は、商業衛星、政府機関、研究機関などをターゲット市場として、エンドツーエンドの宇宙関連事業を展開しています。

ビジネスモデル

Rocket Labは、小型衛星打ち上げに特化した垂直統合型のビジネスモデルを展開しています。同社のビジネスモデルは、以下の3つの主要な柱で構成されています。

• ロケット打ち上げサービス: Rocket Labは、Electronと呼ばれる小型ロケットを開発し、商業打ち上げ市場で競争力のあるサービスを提供しています。Electronは、世界で3番目に頻繁に打ち上げられるロケットであり、様々な用途で190基以上の衛星を軌道に投入しています。Electronは、低軌道に最大300kgのペイロードを投入できます。
• 宇宙船の設計・製造: Rocket Labは、Photonと呼ばれる衛星プラットフォームを開発・販売しています。Photonは、月や火星へのミッション、さらには金星へのミッションにも採用されています。また、Rocket Labは、衛星コンポーネントや宇宙船の製造も行っており、宇宙船の構成要素となる複合構造、リアクションホイール、スタートラッカー、ソーラーソリューション、無線機、分離システム、指揮制御宇宙船ソフトウェア、電源ソリューションなどを提供しています。2020年3月には、カナダの小型衛星向け部品メーカーであるSinclair Interplanetaryを買収し、PhotonラインにSinclairの技術を活用することで、小型衛星の生産増加を支援しています。
• 宇宙システム開発: Rocket Labは、宇宙船の設計・製造に加えて、宇宙システムの開発も行っています。これには、軌道上管理ソリューションや星座管理サービスなどが含まれます。2021年10月には、コロラド州に拠点を置く航空宇宙エンジニアリング会社であるAdvanced Solutions, Inc. (ASI) を買収し、ASIのフライトソフトウェア、ミッションシミュレーション、GNC（誘導、航法、制御）の分野における技術をRocket Labの宇宙システムポートフォリオに統合しました。

バリューチェーン

Rocket Labのバリューチェーンは、以下の通りです。

1. 研究開発: ロケット、宇宙船、宇宙船部品、関連ソフトウェアの研究開発
2. 設計: ロケット、宇宙船、宇宙船部品の設計
3. 製造: ロケット、宇宙船、宇宙船部品の製造
4. 打ち上げ: ロケットの打ち上げ
5. 軌道上管理: 衛星の軌道上管理
6. データサービス: 衛星データの販売・提供

Rocket Labは、これらのバリューチェーンを垂直統合することで、低コスト、高頻度、柔軟な打ち上げサービスを実現し、顧客にワンストップソリューションを提供しています。垂直統合により、Rocket Labは打ち上げサービスのみに特化した競合他社とは一線を画す、より競争力のある価格設定、より迅速な納期、カスタマイズされたソリューションを提供することが可能になっています。

主要な収益源

Rocket Labの主要な収益源は、以下の2つです。

• 打ち上げサービス: 専用ミッションまたはライドシェアベースで顧客に打ち上げおよび打ち上げ関連サービスを提供
• 宇宙システム: 宇宙船エンジニアリングおよび設計サービス、宇宙船コンポーネント、宇宙船製造および軌道上でのミッション運用

Rocket Labは、小型衛星打ち上げサービスに特化することで、この分野で高い収益性を実現しています。また、垂直統合型のビジネスモデルにより、打ち上げサービスだけでなく、衛星コンポーネントや宇宙船の製造、宇宙システム開発など、様々な収益源を確保しています。

特徴と強み

Rocket Labの特徴と強みは、以下の通りです。

• 小型衛星打ち上げに特化: Rocket Labは、小型衛星打ち上げ市場に特化することで、競合他社との差別化を図り、高い収益性を実現しています。
• 垂直統合型ビジネスモデル: Rocket Labは、ロケットの設計・製造から打ち上げ、軌道上管理まで、バリューチェーンを垂直統合することで、低コスト、高頻度、柔軟な打ち上げサービスを実現しています。垂直統合により、競合他社に比べて競争力のある価格設定、迅速な納期、顧客のニーズに合わせたソリューションの提供が可能になっています。
• 独自のエンジン技術: Rocket Labは、独自開発の電動ポンプサイクルを採用したラザフォードエンジンを使用しています。ラザフォードエンジンは、3Dプリンターで製造され、軽量化とコスト削減に貢献しています。
• 複数の打ち上げ場: Rocket Labは、ニュージーランドとアメリカに複数の打ち上げ場を有しており、顧客のニーズに合わせて柔軟な打ち上げサービスを提供することができます。ニュージーランドの発射場は年間最大120回の打ち上げ能力を有しており、これは米国の全発射場の合計を上回ります。
• 高頻度な打ち上げ: Rocket Labは、高頻度な打ち上げを実現しており、顧客は迅速に衛星を軌道に投入することができます。
• Launch Complex 1: Rocket Labは、ニュージーランドにLaunch Complex 1と呼ばれる独自の打ち上げ施設を保有しています。Launch Complex 1は、年間最大120回の打ち上げ能力を有しており、これは米国の全発射場の合計を上回ります。

これらの特徴と強みは、Rocket Labの競争優位性を高め、宇宙開発市場における地位を確立する上で重要な役割を果たしています。

競合他社に対する強みと弱み

Rocket Labの主要な競合他社は、SpaceX、Blue Origin、Virgin Orbitなどです。これらの競合他社と比較したRocket Labの強みと弱みは、以下の通りです。

Rocket Labは、小型衛星打ち上げ市場に特化することで、SpaceXなどの競合他社とは異なるニッチ市場をターゲットにしています。しかし、SpaceXは、再利用可能なロケット技術や大型衛星の打ち上げ能力など、Rocket Labにはない強みを有しています。Rocket Labは、これらの競合他社と差別化を図り、競争力を維持するために、技術革新を継続し、顧客ニーズに対応したサービスを提供していく必要があります。宇宙太陽光発電の分野では、Rocket Labは衛星用太陽電池パネルでリーダーシップを発揮しており、自社のロケットで低コストで衛星に電力を供給できるという点で優位性を持っています。

競合他社

Rocket Labの主要な競合他社は、以下の通りです。

• SpaceX: 再利用可能なロケット技術で知られる、世界最大の民間宇宙企業。大型衛星の打ち上げや有人宇宙飛行など、幅広い事業を展開。SpaceXは、2002年に設立され、本社は米国テキサス州にあります。同社は、Falcon 9やFalcon Heavyなどの再利用可能なロケットを開発し、商業打ち上げ市場を大きく変えました。また、Starlinkと呼ばれる衛星インターネットサービスも提供しており、宇宙産業における影響力を拡大しています。
• Blue Origin: Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスが設立した宇宙企業。再利用可能なロケットや宇宙旅行など、幅広い事業を展開。Blue Originは、2000年に設立され、本社は米国ワシントン州にあります。同社は、New Shepardと呼ばれる再利用可能な宇宙船を開発し、宇宙旅行サービスを提供しています。また、New Glennと呼ばれる大型ロケットも開発中で、将来的には衛星打ち上げや有人宇宙飛行にも参入する予定です。
• Virgin Orbit: 飛行中の航空機からロケットを打ち上げる、空中発射技術で知られる宇宙企業。小型衛星の打ち上げに特化。Virgin Orbitは、2017年に設立され、本社は米国カリフォルニア州にあります。同社は、LauncherOneと呼ばれる空中発射型ロケットを開発し、小型衛星の打ち上げサービスを提供しています。Virgin Orbitは、2023年に破産を申請しましたが、その後、資産の売却により事業を継続しています。
• Arianespace: 欧州の宇宙企業。アリアンロケットシリーズで知られる、世界有数のロケット打ち上げサービスプロバイダー。Arianespaceは、1980年に設立され、本社はフランスにあります。同社は、アリアン5やアリアン6などのロケットを開発し、商業打ち上げ市場で長年の実績を有しています。

これらの競合他社は、それぞれ異なるビジネスモデル、収益源、強みを有しており、Rocket Labは、これらの競合他社と競争するために、独自の戦略を展開していく必要があります。

業界動向と立ち位置

宇宙産業は、近年、急速な成長を遂げています。特に、小型衛星市場は、地球観測、通信、技術開発などの分野で需要が高まっており、今後も高い成長が見込まれています。また、政府の宇宙開発投資も増加しており、宇宙産業の成長を後押ししています。

Rocket Labは、小型衛星打ち上げ市場において、高いシェアを有しており、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。しかし、SpaceXなどの競合他社の台頭により、競争は激化しており、Rocket Labは、技術革新を継続し、顧客ニーズに対応したサービスを提供することで、競争力を維持していく必要があります。

宇宙産業では、スペースデブリ（宇宙ゴミ）の問題が深刻化しており、Rocket Labを含む民間企業は、スペースデブリの軽減に向けた取り組みにも貢献しています。

財務分析

Rocket Labは、2021年8月にSPACによるNASDAQ上場を果たしました。2024年12月期の決算は、売上高3億6382万ドル、純損失1億8833万ドルでした。売上高は前年同期比で増加していますが、依然として赤字が続いています。

Rocket Labの財務状況の推移は、以下の通りです。

Rocket Labの財務の健全性については、2024年6月時点で4億580万ドルの負債を抱えていますが、4億9,680万ドルの現金も保有しており、9,100万ドルのネットキャッシュがある状況です。

Rocket Labは、成長を続ける宇宙開発市場において、高い成長ポテンシャルを秘めています。しかし、競争の激化や技術革新のスピードなど、リスクも存在します。Rocket Labは、これらのリスクを克服し、持続的な成長を実現するために、財務基盤の強化、技術革新の継続、顧客ニーズへの対応など、様々な取り組みを進めていく必要があります。

経営陣の実績と経営戦略

Rocket Labの創業者兼CEOは、ピーター・ベック氏です。ベック氏は、2006年にRocket Labを設立し、同社を宇宙開発市場のリーディングカンパニーに導いた実績があります。ベック氏は、技術革新を重視し、顧客ニーズに対応したサービスを提供することで、Rocket Labの成長を牽引しています。

Rocket Labの経営戦略は、以下の通りです。

• 小型衛星打ち上げ市場への注力: Rocket Labは、小型衛星打ち上げ市場に特化することで、競合他社との差別化を図り、高い収益性を実現しています。
• 垂直統合型ビジネスモデルの強化: Rocket Labは、ロケットの設計・製造から打ち上げ、軌道上管理まで、バリューチェーンを垂直統合することで、低コスト、高頻度、柔軟な打ち上げサービスを実現しています。
• 技術革新の継続: Rocket Labは、独自開発のエンジン技術や空中発射技術など、技術革新を継続することで、競争力を維持しています。
• 顧客ニーズへの対応: Rocket Labは、顧客ニーズに対応したサービスを提供することで、顧客満足度を高め、長期的な関係を構築しています。

Rocket Labは、これらの経営戦略を実行することで、宇宙開発市場における地位を確立し、持続的な成長を目指しています。

SWOT分析

強み

• 小型衛星打ち上げで確立された実績
• 打ち上げサービスと衛星製造の垂直統合
• 複数の打ち上げ契約によって証明される顧客との強固な関係
• ロケットの設計と製造における革新的なアプローチ

弱み

• 事業規模の拡大に伴う潜在的な実行リスク
• 大規模な競合他社と比較した場合の打ち上げ能力の限界
• 将来の成長のためのニュートロンロケットの開発成功への依存

機会

• 小型衛星打ち上げとコンステレーション市場の拡大
• ニュートロンを使った中型ロケット分野でのシェア獲得の可能性
• エンド・ツー・エンドの宇宙サービスに対する需要の高まり

脅威

• 既存および新興の打ち上げプロバイダーとの激しい競争
• 急速な技術進歩により、現在のシステムが陳腐化する可能性
• 国際宇宙協力と市場アクセスに影響を与える地政学的要因

製品/サービスに対する依存度、事業ポートフォリオの状況

Rocket Labは、現在、小型衛星打ち上げサービスであるElectronロケットへの依存度が高い状況です。しかし、同社は、事業ポートフォリオの多様化を図っており、衛星プラットフォームPhotonの販売、宇宙システム開発、半導体製造 など、新たな事業を展開しています。米国商務省から、宇宙グレードの太陽電池の製造能力と生産能力を高めるために、2,390万ドルの助成金を受け取っています。

Rocket Labは、これらの事業を成長させることで、Electronロケットへの依存度を軽減し、より安定した収益基盤を構築していく戦略です。

今後の成長ドライバー

Rocket Labの今後の成長ドライバーは、以下の通りです。

• 小型衛星打ち上げ市場の拡大: 小型衛星市場は、地球観測、通信、技術開発などの分野で需要が高まっており、今後も高い成長が見込まれています。Rocket Labは、この市場の成長を取り込むことで、打ち上げサービスの需要増加が見込めます。
• 政府との契約増加: 政府の宇宙開発投資が増加しており、Rocket Labは、政府機関との契約を増やすことで、安定した収益源を確保することができます。政府との契約は、安定した収益源の確保に繋がり、長期的な成長を支える重要な要素となっています。
• 宇宙システム開発: Rocket Labは、宇宙システム開発事業を成長させることで、新たな収益源を確保することができます。
• 中型ロケットNeutronの開発: Rocket Labは、現在、中型ロケットNeutronを開発中です。Neutronは、低軌道に最大8,000kgのペイロードを投入でき、より大型の衛星を打ち上げることができ、Rocket Labの打ち上げ能力を向上させることが期待されます。これにより、Rocket Labは、現在よりも大きな市場に参入し、収益を拡大することが可能になります。
• 極超音速実験: Rocket Labは、米軍向けに極超音速実験にも取り組んでおり、これは将来の収益機会につながる可能性があります。
• MACH-TB 2.0: Rocket Labは、MACH-TB 2.0プログラムにも参加しており、極超音速飛行試験能力の向上に貢献しています。

Rocket Labは、これらの成長ドライバーを活かすことで、持続的な成長を実現することが期待されます。

リスク分析

Rocket Labが直面するリスクは、以下の通りです。

• 打ち上げ失敗のリスク: ロケットの打ち上げは、技術的に難易度が高く、失敗のリスクが伴います。打ち上げが失敗した場合、Rocket Labは、顧客からの信頼を失い、収益に悪影響を及ぼす可能性があります。2017年5月のElectron初号機の打ち上げは、軌道投入に失敗しています。
• 開発遅延のリスク: 新型ロケットNeutronの開発は、遅延するリスクがあります。開発が遅延した場合、Rocket Labは、競合他社に遅れを取り、市場シェアを失う可能性があります。
• 競争激化のリスク: 宇宙産業は、SpaceXなどの競合他社の台頭により、競争が激化しています。Rocket Labは、競争力を維持するために、技術革新を継続し、顧客ニーズに対応したサービスを提供していく必要があります。
• 規制リスク: 宇宙産業は、政府による規制の対象となります。規制が強化された場合、Rocket Labは、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

Rocket Labは、これらのリスクを適切に管理し、事業の安定性を確保していく必要があります。

シナリオ分析

投資家とアナリストの注目点

投資家とアナリストが注目すべきポイントは、以下の通りです。

• 打ち上げ成功率: Rocket Labは、Electronロケットの打ち上げ成功率を維持・向上させることが重要です。打ち上げ失敗は、顧客からの信頼を失い、収益に悪影響を及ぼす可能性があります。
• 新規契約獲得状況: Rocket Labは、新規契約を獲得することで、収益基盤を強化することができます。特に、政府機関との大型契約の獲得は、Rocket Labの成長を加速させる可能性があります。2024年には、Neutronの複数打ち上げ契約を獲得しており、これは同社の将来の成長を支える重要な要素となります。
• 財務状況: Rocket Labは、財務状況を改善し、黒字化を達成することが重要です。財務状況の悪化は、Rocket Labの事業継続にリスクをもたらす可能性があります。
• Neutronの開発状況: Neutronの開発状況は、Rocket Labの将来の成長を左右する重要な要素です。開発が遅延した場合、Rocket Labは、競合他社に遅れを取り、市場シェアを失う可能性があります。

結論

Rocket Labは、成長を続ける宇宙開発市場において、高い成長ポテンシャルを秘めた企業です。同社は、小型衛星打ち上げ市場に特化し、垂直統合型のビジネスモデルを展開することで、競争優位性を築いています。また、独自のエンジン技術や積極的なM&A戦略などにより、更なる成長を目指しています。しかし、競争の激化や技術革新のスピードなど、リスクも存在します。アナリストの評価は、強気なものから中立的なものまで様々ですが、同社の将来性については概ね肯定的な見方が多いようです。